リアルタイムドキュメンタリー

軍歌とマイナスイオン

ソフトテニス

久しぶりに地元の後輩に会い昔話に花が咲いた。

その流れで中学時代に軟式テニスを教わったT監督の話でもしてみよう。

僕にとっては監督の指導のもと県大会優勝まで導いてもらった恩人だ。

僕の代ではたいした成績を残せなかったが全国優勝者も排出し、今でこそ軟式テニスの強豪校として知られる母校を一から築き上げた地元の功労者でもある。(当時は知る由もなかったがボランティア活動でその偉業を達成しているのがまた畏れ多い)

 

『軍歌』と『マイナスイオン』

 

T監督を語るうえで決して避けては通れない相容れないはずのこの二つの言葉。何を隠そう混ぜるなキケンとも思えるこの両者を交わせてしまった張本人こそがT監督である。

 

***

 

大切な試合の当日、試合会場へ移動しているT監督の車内ではなぜか軍歌がかかっていた。

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当時2000年代に突入し、世間はついにミレニアム!新時代!と叫ばれていた最中の出来事である。自分史上、軍歌をあんなにフルで聞いたのは後にも先にもこの時だけだ。

当然、軍歌なんか聞きなれないので全然頭に入ってこないし、ぼくには既にイメージトレーニング用のマイテーマ曲といえるものがあった、長渕剛のRUNだ。

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『賽銭箱に~100円玉投げたら~釣り銭でてくる人生がいいと~

 両手を合わせ~願えば願うほど~バチにけっつまづき膝をすりむいた~

 なるべくなら~なるべくなら~嘘はない方がいい~

 嘘は言わない、そう心に決めて~嘘をつき続けて俺生きている~』

 

この年齢になって聞いてみると実に奥深い意味を持つ歌詞だが中学時代のぼくには難解すぎた。歌詞を無視して長渕の勇ましい歌声とメロディを繰り返し聞き続けると不思議とネガティブなイメージが頭からすーっと消えていき戦闘モードに切り替えられる自分がいた。

 

T監督 「軍歌は気持ちを高めるんやぁ。昔の兵隊さんはみんなこれ聞いて戦場に出かけてたんや!」

 

私 「監督、分かりました!(やから気持ち高める為にはよRUN聞きたいんよ・・・。)」

 

たしか監督はこんなこともよく言っていた。

 

T監督 「武士の時代やったら、戦とは刀で斬り合って生きるか死ぬかの世界や。その点、テニスは試合で負けても死ぬことないから甘いもんや。お前らはラケットを刀に持ち替えたと思って戦ってこい!」

 

私 「監督、分かりました!(ラケット刀にかえたらボール斬れてまうわ。剣道くらいならその比喩すんなり入ってくるけど、距離とってボールを相手コートに打ち合うテニスでそんなこと言われてもいまいち入ってこやんねん・・・。)」

 

そうやって選手の気持ちを高めて鼓舞する為の方策をあの手この手で取り入れ試してくれていたT監督だが、県大会当日も軍歌をかけて試合会場に到着したあと、今度はコート近くの木々が茂る木陰に連れていかれた。

 

T監督 「なんか感じやんかぁ。」

 

私 「何がです?監督、なんも感じません。」

 

T監督 「ええか。木々からはマイナスイオンってもんが出とんや。マイナスイオンを肌で感じてみ!気が落ち着くやろ。そっからパワーを吸収して自分の力に変えるんやっ!」

 

私 「監督、分かりました!(軍歌で気持ち高めたばっかちゃうんかいっ)」

 

今度はシリコンバレー発の昨今の瞑想ブームの先駆けのような指導だ。

軍歌で猛らせた気持ちを、マイナスイオンで鎮めるのだ。

まさに動と静。心の往復トレーニングである。

ドカベンでいうところの『徳川家康』、あしたのジョーなら『丹下段平』くらいには並ぶ尖った指導法と評されてもおかしくはない。

推測の域を出ないけれど、おそらくだけど、監督はもう何年も指導者をやって練習内容や試合の戦術みたいなスキル習得に対する指導はやり尽くした結果、軍歌とマイナスイオンを使ったメンタルトレーニングという指導者として最後の最後でいきつくかどうかの極地に到達したんだと思う。今度会ったら真相のほどを伺いたい。

 

『嘘は言わない、そう心に決めて~嘘をつき続けて俺生きている~』

 

もしかすると無意識に中学時代から実践していたのは長渕の方だったかもしれない。この年齢になり長渕の歌詞がよく染みるようになった。

 

 

さて、冗談はこれくらいにして

あの時の成功体験が今の自分に繋がっています。

 

T口監督も仰ってましたよね。

「どこにでもいる中学生が全国の舞台で戦える貴重な経験が出来る。それがこの中学でソフトテニスをやる意味や」と、

 

既に実力差が大きく離れている高校ではなく、まだギリギリ横並びでスタート出来て、努力が成果に結びつきやすい中学から勝負をかけるタイミングの重要性を当時から説かれてました。

中学ソフトテニスがそのような環境にあること、勝てる領域、勝負すべき場の見極めも見事です。

 

確かに対して運動神経も良くなかったはずの先輩たちが次々と活躍していく姿を見て、これなら自分でも出来るかも!

と、ちょっと足が速いくらいしか取り柄が無かった僕に対しても未来への期待感を頂かせてくれました。

この期待感が僕を成功体験の入り口に連れていってくれました。

 

『人は手に入れているものよりも期待するものを喜ぶ』とは社会契約論で有名なルソーの言葉ですが、『期待感』の醸成がいかに難しくて、人にとって意味を持つのか、年を重ねるごとに自分の身に迫ってきます。

こんなご時世なら、なおのこと。

 

それから、

 

勝つことの興奮、気持ちよさ、嬉しさ、難しさ、苦しさや周囲からの期待、称賛、評価

勝つための方法論や方法論を自ら考える(+発見する)楽しさ、努力の質や量

負けることの悔しさ、悲しさ、煮えたぎる怒り、自己批判、挫折

プレイに表れる自分の臆病さ、小ささ、才能の無さ

紙一重の実力差で決まる勝敗の結果、

その結果に大きく左右されるその後の競技生活(大きく言うと人生)

運を引き寄せるのも実力だけど、最後はやっぱり『時の運』の要素も大きいこと

 

を学びました。どれも尊い学びでした。

結果だけではなく、それら全てをひっくるめた学びが成功体験と呼ぶに相応しいものとなって今に活きています。

 

T口監督!いつまでもお元気でご活躍を!!

 

(直接はこっぱずかしいので、こうしてこっそりブログとして書きました。関係者の方はさり気なく本人にシェア頂けると助かります。)