リアルタイムドキュメンタリー

正月の鳥羽釣行録「人はなぜ釣りにハマってしまうのか」

ブリ

2020年1月1日、夜の八時を回った頃、僕は新横浜駅に降り立っていた。元旦の夜といえば、芸能人格付けチェックやドリーム東西ネタ合戦なんかをザッピングしながらお酒を飲んでまったりと過ごすのが通例だ。それが今年はなぜか新横浜駅にいた。翌日早朝に三重の鳥羽港から乗合船で海釣りにいくためだった。

元旦くらい家族でゆっくり晩飯でも食べてから出ていかないと、後から何を言われるか分からない。しかし、そんな時に限り妻の仕事の帰りが遅い。そうこうしているうちにほぼ終電での移動になってしまったのだ。

年末の帰省ラッシュが嘘のように、元日夜の新横浜駅は人がいない。

元旦の新横浜駅

 

キャリーケースを必死に転がし、20:29発のぞみ131号岡山行きに駆け込みセーフでの乗車に成功した。

新横浜駅から乗車

 

乗車率は8割程度。驚いた。この時間から帰省する人も結構いるもんだ。

元旦の新幹線の様子

 

乗車直後から年末にイッキ見した逃げ恥のみくりちゃんが男目線でいかに可愛いかを考え続けていたらすぐに名古屋に着いた。

22時前の名古屋駅。いつもは人でごった返すこの駅も今夜はスイスイと進むことができた。

元旦22時の名古屋駅

 

なんとか22:05発の近鉄特急松阪行きに間に合った。これで友人宅までは帰れるとホッと一安心した。

近鉄名古屋駅

 

誰一人いない車内。貸し切り状態の静まりかえった車内では引き続きみくりちゃん記事の執筆がよく進む。

近鉄特急松阪行き

 

23時過ぎにようやく松阪駅に到着。

もともと利用者が少ない駅だが、もぬけの殻となった構内をダッシュし、無事友人宅へのゴールインを決めた。

松阪駅

 

友人宅に到着して撮った一枚。本番は明日なのに力尽きた様子がこのブレブレの写真からもよく分かる。

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結局、眠りについたのは24時を回り日付が変わった後だった。みくりちゃんにテンションが上がった僕はハイボールのロング缶を2本あけてしまっていた。ちくしょう。こんな時ばかりはみくりちゃんを恨んだ。明日起きられなかったらみくりちゃんのせいだ。

 

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たまにはiPhoneも空気を読んでほしい。予定通り早朝4時きっかりにアラームが鳴った。ぐぐぐ、流石にまだ眠い。あと6時間は余裕で寝れる。こんなに早く新年一発目の試練がやってくるとは思わなかった。

これってただの趣味だったよね?だいたい趣味に試練て何なの?バカなのオレ?てかこの布団気持ち良すぎないか。悪いのは布団だ、決して俺の意思が弱いわけじゃない。そんな布団の野郎と格闘すること五分。最後はバックドロップからそのままピンフォールを決めた俺の勝ち。めでたく布団からの脱出にも成功し、慌ただしく準備を済まして鳥羽港に向けて出発した。当然あたりはまだ真っ暗だ。

早朝4時半鳥羽港にむけて出発

 

車はぐんぐん進む。トンネルを抜けるとその先はすぐに鳥羽港だ。ワクワク感が眠気を凌駕した。さっきまでの気怠さはどっかに吹っ飛んでいった。

トンネル

 

船着場に佇む夜明け前の船は独特の空気を漂わせている。今日は何かが起きそうだ。そう感じさせてくれる雰囲気がある。というか、正月早々はるばる東京からやってきたのだ。気分良く釣らしてくれてもいいじゃないか。

しかし、船長。あんたもあんただよ。一月二日から船を出すなんてとんだ釣りバカやろうだよ。

乗合船

 

定刻通り6時過ぎに鳥羽港を出発、夜明けにつれて赤くなる空が心に染みる。

乗合船出発

 

他にも何隻かの船が海に出ている。ここはおめでたい海人たちの遊び場だ。

他の乗合船もすぐ近くに見える

 

ご来光を拝むボス。流石の貫禄だ。高校時代から海人のTシャツを愛用していただけのことはある。

ご来光を拝むボス

 

船は最初のポイントに到着し、釣りを開始した途端、友人が幸先よくワラサを釣り上げた。

幸先よくワラサをゲット

今日は大漁か。期待感が一気に船内に充満した。

 

今回やる釣りはジギングと言ってジグと呼ばれる擬似餌を海底近くまで垂らし、竿先を上下に動かすことで、捕食対象の小魚に見立てて、誘いこむ釣り方だ。従って、ジグのサイズや動き方をいかに普段よく食っている餌に合わせられるかが勝負の分かれ目で、魚と人間の騙し合いのドラマがそこにはある。

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こんな感じで竿先を上下に動かして絶えずジグをアクションし続ける必要があり、1日の終わりには腕がパンパンになるほどしんどい釣りの一つだ。

ジギングのロッドアクション

 

だからこそ何百回と一日中しゃくり続けた中のたった数回のチャンスをものにし、大物を釣り上げた時は格別の嬉しさがある。

幸先よくスタートしたはいいが、そのあとが続かなかった。

我慢してひたすらジグを投げ続ける。

ジギング

 

たとえ釣れなくても、ポイントへ移動中の談笑もまた釣りの醍醐味の一つだ。

釣りの醍醐味

 

僕もこの時初めて知ったが、鳥羽の海には野生のスナメリがたくさん生息している。この日はスナメリがよく現れたが、スナメリがいるポイントは釣れないらしい。ボスの経験値は漁師並みだ。

目をよーく凝らしてみるとスナメリが見えるかもしれない。

よーく見るとスナメリが見えるかも

実物はこんな感じだ。

スナメリ

 

しばらく我慢の釣りが続き、その時は来た。

潮回りや海の状況などの条件が重なり、一気に魚の食い気が上がる時合いがやってきたのだ。ボスを筆頭にみんな釣るわ釣るわの釣りざんまい状態。正月らしく真鯛もゲットできた。

真鯛もゲット

 

14時に帰船するまでには、一緒にいった四人トータルで、真鯛x1、サワラ、ワラサ(ほぼブリのサイズも含む)、シーバスを5~10本程度といった釣果があがった。ボスをもってしてもこの日は大漁だったらしい。

終わってみれば大漁

 かくして我が家の正月には新鮮な刺し身が相撲部屋かのように並んだわけなのだけど、乗船料1万1千円を支払い、何万とする高額のタックルやジグを揃え釣りに出ていることを考慮すると単に美味しい魚を食べたいという目的だけでは辻褄が全く合わない。

では、人はなぜ正月のど真ん中に東京から三重までへと移動して朝の四時起きで船にのり、もし陸で誰かが見ていたら苦行や筋トレにしかみえないジギングの釣りを7,8時間ぶっ通しで続けても楽しいと思うのか。

魚がかかった瞬間のスリリングな駆け引きや興奮、大物が釣れた時の感動や周囲からの驚きや称賛に対する優越感はあるが、それよりも成功に向けて試行錯誤するプロセスそのものが最高のエンターテイメントなんだと僕は思う。

魚に引きちぎられないように竿や糸をどれくらい太くして。魚に見破られないようにジグのサイズや色、アクションはこんな風に工夫して。時にはベテラン釣り師の技を盗んだり。船長に最近の釣果について情報収集したりと、自分がどんな工夫をしてきたか、その工夫はどれだけ大変なのか、そんな会話をしている時の釣り師の目が一番輝きを放っている。試行錯誤を経て釣り上げる大物が真の感動体験へ繋がる一本道だといっても過言ではない。

サービス設計の際には、試行錯誤するプロセスまでを設計しきれるかが本質である事を念頭に置いて考える必要がある。正月の苦労ゆえの鳥羽釣行ではそんな事を教えてもらった。遊びから学ぶ事は実に多い。