リアルタイムドキュメンタリー

全員を勝たせるビジネスディベロッパーという仕事

ビジネスディベロッパー

今日も一つ、僕は逆転への布石を打っていく。

 

前回エントリではSIerの仕事内容、業界事情について触れ、若手が退職する理由の一つとして環境変化により花形だったプロジェクトマネージャー(PM)の魅力度が下がっているのでは?と書きました。今回はここをもう少し掘り下げていきます。

 

前回エントリはこちらから読めます。

riopo.hatenablog.com

 

長くなってしまったので先に結論を書いておくと、正解が見えていたコスト削減の為のシステム開発をメインにできた時代は全員を勝たせる事が出来たPMという役割はめちゃくちゃカッコ良かった。一方で、新たな市場を作ったり、売上を増加させたり正解が見えないシステム開発をやる時代に突入した今、全員を勝たせる事が出来るのはビジネスディベロッパー的な役回りしかないんじゃないか、と考えています。

PMとは何か

PMとは、プロジェクト全体の進行を管理し、予算や品質、納期、成果物のクオリティに対して全責任を持つ役職のことで、プロジェクトを成功に導くまでなんでもやるのが仕事というかなり広範囲なスキルが要求される。

アプリケーションエンジニアとしてより顧客に近いポジションで、技術とビジネス・マネジメントをバランスよく精通したいと大手SIerに就職すると、経験を積んでPMを目指すキャリアパスが大道とされ、花形のポジションだった。僕が入社した直後あたりから一部の若手の間で徐々にこの役割への憧れが薄れていった。

コーポレートIT前期時代のPM

今まで人手をかけてやっていた業務をシステムに置き換える事でコストを抑制する為のIT投資、これをコーポレートIT(CIT)投資と呼ぶ。分かりやすいとこで言うと、電話だけでしか出来なかったお店の予約をWebから出来るようにして、電話対応する人を減らす事から始まり、ついでに予約履歴をもとにして自動的に売上帳票をレポートしたり、販促をかけたりできるようにして、人が作業する時間を減らしていく。

これを様々な業種のクライアントに対して何千人、何万人の作業を無くすような大規模なレベルでやって来たのがSIerだ。ネットも未発達で、効率的な仕組みやノウハウ情報が一瞬で出回る事もなく、会社毎の業務に特化したシステムがたくさん出来上がったが、当時はそれが最適だった。

効率化により削減できた人件費や紙代などの運用費とシステム開発にかかった費用に対する費用対効果が明確に計算出来る為、顧客側の意思決定も比較的に容易だった。

開発を担う内部メンバに対しても、その意義が説明しやすく、みんなが同じ方向を向いて仕事する事ができた。やればやるほど「コスト(主に人件費)の削減」という成果が出るからクライアントも喜んでくれた。筋トレみたいなもんだ。この時のPMは顧客もプロジェクトメンバーである社員も協力会社の方々も全員を勝たせる事ができたリーダーとしてめちゃくちゃカッコ良かった。

コーポレートIT後期時代のPM

金のある大企業から順にCIT投資が一巡し、人間系の非効率な業務が減ってくると、記憶に新しい今年10月の増税対応のような法律や社会制度の変化に伴い必要となるシステムのバージョンアップと、サーバーやWin7のようなOS、ソフトウェアのサポート、ライセンス切れに伴うシステムの消費期限切れに対応するバージョンアップの為のCIT投資がメインとなった。

このバージョンアップ系のCIT投資は「人件費の削減」に繋がらない事が多い。

例えば、耐用年数が過ぎ冷蔵庫を新しく買い替えた場合、消費電力が減ったり、より多くの食品が素早く冷凍出来たりと、性能は向上するが食品を保存するために冷蔵庫に出し入れする作業時間は変わらないのと同じだ。 

費用対効果を出す為に人件費の削減だけでなく、便利さや売上向上の為の付加価値をつけてバージョンアップをしたいところだが、これらの付加価値は定量化が出来ない為、クライアント側での意思決定が難しい。結果的に単なる性能向上だけのバージョンアップに留まることで付加価値が見出しづらくなり、費用対効果を出す為にクライアントからの開発費用の削減要求がとにかく厳しくなる傾向にある。

こういった案件が多くなってくると顧客との信頼関係に徐々にヒビが入り出す。

人月商売の為に、工数削減の工夫をするメリットがないとか揶揄される事が多いが、現場レベルではプロジェクトの組立を工夫したり、テストを自動化したりと様々な工夫をしてなんとかこれに答えようとするが、現場レベルの工夫だけではいずれ限界に達する。

今後も確実に発生する仕事だが、顧客からの感謝も薄れ、ギリギリのスケジュールや人員で対応を迫られる、キツイ誰もがやりたくない仕事となる。鋼の精神でプロジェクトを完遂するPMもいるが、心が折れてしまったPMもたくさん見てきた。どっかで誰かが我慢するそんな世界だ。

競争相手は世界レベルに

そうこうしていると、世界レベルで共同利用して規模の経済を働かせるクラウドサービスが台頭してきた。まずは中小企業や個人が一斉にそっちに乗り換えた。サーバーやネットワークのインフラから始まり、徐々にサービスに関わるレベルまでその範囲は広がった。利用者が増えるほどに提供されるサービスは安価になり、洗練され、これまで会社毎の業務に合わせて個別開発、運用していたものが、汎用的なサービスに置換可能だと証明されていった。クライアントの比較対象が世界レベルになった事で、サービスレベルに対する要求や開発・運用コストの削減要求は益々厳しくなっていった。顧客視点に立って考えれば当たり前の話だ。

ビジネスITあるいはデジタルトランスフォーメーション

そんな大きな変化点に来ているSIerはここ数年で一気に舵を切り、クライアントの売上増加の為のIT投資に鉱脈を見出している。ちょうど実用レベルにまで育ってきたAI、IoT、ブロックチェーンなどのテクノロジーを武器として。これがビジネスIT(BIT)とかデジタルトランスフォーメーション(DX)とか言われるやつだ。

人口減少社会に突入し普通にしていれば売上が下がっていく時代にクライアントも困り果てている。従来型の請負開発モデルから脱却し、新しい市場やサービスを作って利益を共有する事にまで全責任を持ち、クライアントにもクライアントの先のユーザーにも、そしてそれを開発、運用している開発者にも感謝されるそんな世界観を作れるビジネスディベロッパーという役割が最高にカッコイイ時代がやって来ている。

 

明日やろうはバカヤロウなんだよ!